オランダのスペシャルティコーヒー
カウンターの向こうで一杯ずつ湯を落としてもらう——その時間に馴染んだ目には、オランダのコーヒーは少し勝手が違って映るかもしれない。ロッテルダムは1940年に街ごと焼け、コンクリートとガラスで建て直された街で、新しいものを先に試す気風がそこで根づいた。コーヒーもその一つで、古い喫茶の層の上に新しい店が重なった街とは、成り立ちの順番からして違う。Specialty Atlasのオランダ側はこの一都市だけで完結する。鉄道の乗り継ぎを考えずに一日で組み立てられる旅は、ヨーロッパではそう多くない。
オランダでスペシャルティコーヒーが飲める都市
歩いて済むサイズの街
中心部、オウデ・ノールデン、コップ・ファン・ザイト。徒歩か地下鉄ひと駅で繋がっているので、列車の時刻表ではなく街区の単位で一日を組み立てられる。喫茶店を二、三軒はしごするのと同じ感覚で、朝から夕方までを一本の線で結べるということだ。ここに掲載したオランダのカフェ十五軒は、すべてロッテルダム市内の住所を持っている。アムステルダムとユトレヒトはまだ地図に入っていないため、このページを見て中央駅で一時間を溶かすことにはならない。宿を移す必要も、荷物を預ける算段もいらない。移動そのものを予定に数えなくていい距離感だと思っておけばいい。行き先を絞り込む作業がそのまま省けるので、迷う時間は店先での一杯に回せる。丸一日あてても、先に尽きるのは店の数ではなく、こちらの脚のほうだろう。
焼いている人は二組
オランダで稼働している焙煎所は多くない。DAK Coffee Roastersの拠点はアムステルダムで、豆のほうが動いてくるから、こちらから出向く用事はない。ロッテルダムで焙煎しているのはManhattan Coffee Roastersで、カフェの名を一軒も知らないうちからこの街をコーヒーの目的地に選ぶ人がいるのは、たいていここが理由になる。午前をまるごと充てるだけの価値はあるので、カフェを先に並べるより、焙煎所を軸に一日の骨組みを引いてしまうほうが早い。棚が短いことには利点もある。豆を買って帰り、自宅のドリッパーで淹れ直すところまで含めても、オランダのコーヒーは一度の滞在で端から端まで追いかけられてしまう。同じ豆を店で飲み、翌朝に自分で落とす——その比べ方ができる規模だということだ。




